IoTを活用したシェアリング自転車とは?

自動運転技術に必要不可欠なIoTというテクノロジー。さまざまな分野への活用が徐々に広まってきており、まさにアイデアひとつで革新的な製品を生み出すことが可能になる技術です。
しかし、身近なものであればあるほど、盲点となり多くの人が見逃している傾向があります。そんななか、パナソニックは「自転車」のIoT化をテーマに新たなサービスを開始すると発表しました。自転車版のシェアリングサービスとも言うべきこの発表について、今回は詳しく紹介していきます。

シェアリング自転車サービスの概要

パナソニックといえば日本を代表する家電メーカーとして有名ですが、自転車を製造・販売しているというイメージを持っている人は少ないのではないでしょうか。
パナソニックの子会社であるパナソニックサイクルテック株式会社では、1952年の創業以来、実に60年以上にわたって自転車を製造販売を手掛けている老舗メーカーです。一般的な自転車はもちろんですが、パナソニックの強みを活かした電動アシスト自転車や電動アシスト三輪車、それらの補修パーツなどもトータルで手掛けており、シティサイクルからスポーツ向けの本格的な自転車までその範囲は非常に広いです。
パナソニックサイクルテックは2019年1月末、中国においてシェアサイクル事業を手掛ける大手「モバイク」と共同でIoT機能付きの電動アシスト自転車を開発したことを発表しました。
新たに開発した車種は、パナソニックがすでに発売しているXM1とよばれるマウンテンバイクをベースにしたもの。XM1には電動アシストが搭載されており、3時間の充電で42km〜78kmの走行が可能。アシストレベルは「Highモード」「Autoモード」「ECOモード」と3つに分けられており、それぞれのモードによって走行距離が変わってきます。

IoTを活用したシェアリング自転車の機能詳細

もっとも特徴的なIoT機能について詳しく紹介していきましょう。コネクティッドバイクともよばれるこのシェアリング自転車は、スマートフォンによって自転車の施錠と解錠が可能です。また、走行距離を記録できるほかGPSの機能によって駐輪場所の把握も可能にしています。
自転車の貸し出しサービスが一般的ではない理由として有効な盗難対策がないことが挙げられていましたが、IoTを活用することによってこの課題をクリアすることが可能になり、盗難だけではなく不正に悪用されることを防ぐことにもつながるはずです。
また、シェアリング自転車の強みは乗り捨てができるという点にありますが、自転車が一定の駅や施設などに集中してしまう問題も出てきます。これもGPSを活用することによって、どのポイントに自転車が集中しているのかを簡単に把握でき、自転車を移動させる際においても効率的な作業を可能にしてくれます。

シェアリング自転車へIoTを活用する理由

そもそもなぜ自転車へIoT技術を搭載することになったのでしょうか。先ほど紹介したシェアリングサービスの展開も大きな理由のひとつですが、それ以上に自動運転技術への適応という課題があります。
自動車メーカーの多くが研究開発に取り組んでいる自動運転技術は、各種IoTセンサーやカメラなどによって収集したデータをAIによって処理することによって可能にするものです。しかしこの技術を実現しようとすると、自動車1台だけでは実現が難しいものです。あらゆるメーカーの自動車が自動運転技術に対応し、それぞれの運転データをクラウドで集約し、他の自動車ともデータを共有したうえで連携しなければなりません。
しかし、当然のことながら道路を走行するのは自動車だけではなく、バイクや自転車も存在します。これらにもIoTが対応してさまざまなデータが取得できるようになると、道路で事故が発生するリスクも大幅に低減することにつながるはずです。
パナソニックのシェアリング自転車が電動アシスト自転車をベースに開発されたのも、将来的にはIoTで取得した走行データを自動運転技術に応用し、万が一の場合には事故回避につなげる技術に対応させる目的も考えられます。
自動運転が実現する社会においては、人間の意思をAIやIoTが推し量ることはできず、ましてや機会と人間が道路上でコミュニケーションをとることもできません。たとえば交差点で道を譲る際においても、人間同士であれば運転者同士がコミュニケーションをとったうえで走行できますが、人間と自動運転車だと同時に発進して衝突してしまう危険性も考えられます。このような事故を防ぐためにも、機会同士がコミュニケーションをとれるような仕組み作りは必要不可欠です。
自転車やバイクは2輪という特性上、自動車に比べて完全な自動運転は難しいと思いますが、少なくとも緊急時用の制御としてIoT技術を取り入れることは有効と考えられます。

シェアリング自転車が盛んな中国

自転車作りとIoTのノウハウを持っているパナソニックは、そもそもなぜ中国の企業と手を組んだのでしょうか。実はその裏には、中国におけるシェアリング自転車サービスの高い普及率があります。
特に日本企業が多く進出している深センや上海といったエリアにおいては、街のあちこちに自転車の乗り捨てが可能なシェアリング自転車のサービスが充実しています。当然のように決済は電子マネーやQRコード決済が前提で、スマホひとつで手軽にレンタルが可能。
一方で日本国内ではこのようなシェアリングサービスは一般的とはいえず、サービスの仕組みや運営のノウハウがほとんどありません。自転車やIoTといったハード面はパナソニックは得意ですが、ビジネスを展開するうえでのソフト面におけるノウハウが不足していたのです。そこで、シェアリングサービスの大手である中国のもバイクと協業することになりました。
シェアリング自転車は一日に何度も不特定多数のユーザーが乗ることを想定して、比較的がっしりとしたフレームでタイヤもパンクに強い太いものが使用されます。平坦な道であればそれほど負担に感じることはないのですが、坂道の多い日本ではこのようなバイクはあまり支持されません。
そこで、パナソニックでは耐久性のあるマウンテンバイクの形状をした電動アシスト自転車をベースにサービス提供することとしました。これによって、シェアリング自転車の大きな課題であるパンクなどへの耐久性という問題と、日本ならではの坂道における走りづらさの問題をクリアすることに成功しています。
さらには、中国は現金での決済ではなくQRコード決済などのキャッシュレス化が進んでいます。決済に関するノウハウが少ないパナソニックにとって、モバイクと提携したことは中国での成功事例を日本においてスムーズに展開する際に有効な方法であったといえるでしょう。

2019年4月から実証実験を開始

サービス開発が発表された数カ月後の2019年5月から、実際に国内においてシェアリング自転車サービスの実証実験が行われています。対象となっているエリアは神奈川県横浜市にある「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」、慶應義塾大学日吉キャンパス。30台のIoT搭載自転車を提供し、実証実験は3年間の期間を予定しています。実証実験の期間中は利用者に対して定期的なアンケートが行われ、サービスに反映しながらブラッシュアップしていくとしています。
今回のIoT搭載自転車は、タイヤの径が小さい「グリッター」とよばれるモデルがベースとなっており、より多くのユーザーに手軽に乗ってもらえるような工夫がされています。もともとパナソニックではショッピングなどに重宝するシティサイクルや、子どもの送迎にも有効な子育てモデル、スポーツバイクなども幅広く手掛けており、将来的には全てのモデルにIoTシステムを搭載することを目標としています。
この実証実験では走行データはもちろん、電池残量や故障などについても情報が共有され、より利便性の高いサービスに役立てていくことが期待されているほか、有効な盗難防止システムの開発にも役立つはずです。

シェアリング自転車とIoTの普及によって社会はどう変わる?

IoT技術によって実現されるシェアリング自転車サービスですが、実際に社会に浸透したとき、私たちの生活はどのように変わっていくのでしょうか。いくつか考えられる具体例を見ていきましょう。

健康志向が高まる

シェアリング自転車が全国に普及すると、バスやタクシーを使うような距離であっても自転車で移動するユーザーが増えるはずです。バスやタクシーを使うくらいなら、健康に配慮して自転車で移動するというユーザーが増え、健康への意識向上につながると期待できます。
また、普段あまり自転車に乗らないユーザーであっても、実際にシェアリング自転車を体験することによって自転車で走る楽しさに目覚め、移動手段として自転車を愛用するケースも増えてくるかもしれません。

移動範囲の拡大

これまで自転車といえば、外出先で利用するのではなく自宅周辺での利用が前提でした。外出先においては、駅やバス停からの徒歩圏内でしか移動しないという方も多かったと思いますが、駅にシェアリング自転車が配備されることによって一気に移動範囲が拡がることになります。
徒歩15分以上かかるような場所であっても自転車があれば手軽に移動できるため、行ったことのないエリアを散策したり新たなお店を開拓することにも役立ちます。

交通事故の撲滅

IoT技術が搭載されたシェアリング自転車が世の中に広まってくることによって得られるもっとも大きなメリットとしては、やはり交通事故の撲滅ではないでしょうか。最近では自転車と歩行者との接触事故も増えており、自転車だからといって事故の加害者になる心配がないとは言い切れない現状があります。当然、自動車との衝突があった場合は怪我や死亡にいたるケースもあり、手軽な乗り物だからこそそのようなリスクがあることを忘れてはいけません。
IoT技術が発達して自動車に自動運転システムが搭載されるようになると、自転車のIoTシステムと連携して事故を未然に防ぐ仕組みも可能になるかもしれません。まだまだ自動車の完全自動運転化は先が長く、多くの課題を抱えていますが決して実現不可能なものではありません。
日々ニュースで報じられている不幸な交通事故をなくすためにも、IoTやAIの技術を応用した自動運転システムは有用性の高いものです。
シェアリング自転車を提供する企業はパナソニック以外にも続々と増えてきています。まだまだ都市部を中心としたサービスではありますが、IoTの活用によって効率的なサービス運用のノウハウが蓄積していくと、地方も含めて全国各地にシェアリング自転車のサービスは広まってくると期待されています。